工程
7つの工程のうち、
手を動かすのは2つだけです。
残りの5つは、待っています。急ぐと値が動くので、急げません。 電子天びん1台の校正にかかる時間を、工程ごとに書き出したものが下の表です。 いちばん長いのは、いちばん最初の「開けない」時間です。
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24時間
開けない
届いた箱をその日は開けません。トラックの荷台と校正室では温度が違い、 金属は温度で伸び縮みします。20±2℃ の部屋に置いたまま、ひと晩なじませます。 この工程を飛ばした日の値は、翌日にはもう合いません。
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6分
床を疑う
気泡が真ん中にあっても、床のほうが傾いていることがあります。 据え付けの台に載せ、別の水準器でもう一度見ます。ここで傾きが見つかると、 この先の作業はいったん止めて、台の脚から直します。
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30分
電源だけ入れて、離れる
暖機です。中の回路が温まりきるまで、表示はゆっくり流れ続けます。 30分経ってから戻ると、たいてい最初の表示と 0.3mg ほどずれています。
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1分
分銅を置く ── 手を動かす工程 その1
ピンセットか、布の手袋。皿の中心に置きます。中心から 15mm ずれると、 台はかりでは表示が変わる機種があります(偏置誤差といいます)。
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8分
待つ
置いた瞬間から、表示の最後の桁は揺れています。 揺れが収まって動かなくなることを 静定 といいます。平均して8分。 扉を開ければ空気が動いてやり直し、机に肘をつけばやり直しです。
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4分
読んで、書く ── 手を動かす工程 その2
表示をそのまま書き写します。四捨五入も、きりのいい数字への直しもしません。 都合の悪い桁ほど、そのまま書きます。後から役に立つのはそちらだからです。
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×15
もう一度、同じことをする
ひょう量の 0・20%・50%・80%・100% の5点を、3回ずつ。 工程4〜6を15回繰り返して、はじめて1台が終わります。 合計で平均 3時間12分。そのうち手が動いているのは 1時間15分です。
待っているあいだ
何もしていないように見えて、部屋のほうを見ています。
静定を待つ8分のあいだ、見ているのは表示ではありません。表示は勝手に落ち着きます。 見ているのは、落ち着くのを邪魔するもののほうです。
| 見ているもの | 起きること | 表示への影響 |
|---|---|---|
| 空調の吹き出し口 | 風が皿に当たる | 0.5mg ほど揺れ続ける |
| 扉 | 開け閉めで気圧が動く | 一瞬 2mg 跳ねる |
| 人の出入り | 床がたわむ | 静定がやり直しになる |
| 窓から差す日 | 片側だけ温まる | 30分かけて 1mg 流れる |
| 自分の呼気 | 皿の上の空気が温まる | 0.3mg 軽くなる |
校正室に窓が一つもないのは、景色が要らないからではなく、
日が差すと片側だけ伸びるからです。
この5つを潰して、ようやく「数字が止まった」と言えます。 止まらない日もあります。その日は帰ります。帰る理由は、 お断りしている仕事と同じところから来ています。