溶け方
氷の値打ちは、溶けはじめてから分かる。
置いてある氷は、どれも同じ顔をしています。 違いが出るのは、グラスに入れて10分ほど経ってからです。
角が丸くなりはじめるまで、23分。
20℃・湿度55%の部屋で、口径75mmのロックグラスに蒸留酒を60ml。 2寸の角氷を1個入れて、角が丸みを帯びはじめるまでを測りました。3回の中央値です。
測り方も数値も、見本のために作ったものです。
「薄まらない氷」という言い方を、当所はしません。
最後に出てくる水の量は、どれも同じだからです。
違うのは、その水が出てくる速さです。 23分と8分では、飲みはじめから飲み終わりまでの濃さの変わり方が違う。 薄まらないのではなく、薄まる時刻を後ろへずらしている、というのが正確なところです。
なぜ差がつくか
空気の粒は、溶けはじめる入口になります。
氷の中の気泡は、ただの空洞ではありません。 表面に近い気泡は、溶けはじめると水の通り道になり、そこから内側へ水が入り込みます。 入り込んだぶんだけ、水に触れている面積が増える。面積が増えれば、また早く溶ける。
だから気泡の多い氷は、溶けるほど溶ける速さが上がります。 対して芯を落とした氷は、面がそのまま平行に後退していくので、 最後まで速さがほとんど変わりません。
音のこと
グラスの中で氷が鳴るのは、割れているからです。
酒を注いだとき、氷が「ピキッ」と鳴ることがあります。 あれは表面だけが急に縮んで、中の気泡のまわりに罅が入る音です。 気泡がなければ、縮みを逃がす場所もないかわりに、割れるきっかけもありません。
当所の氷は、ほとんど鳴りません。 静かなのが良いかどうかは、お店の好みだと思います。 音がほしくて、わざと気泡の入った氷を使う店もあります。
澄んだ氷は、黙っています。
冷凍庫に置いておくと、氷は乾きます。
凍ったままでも、氷は表面から少しずつ水蒸気になって抜けていきます。 −18℃の家庭用冷凍庫なら、2週間で角が丸くなり、面がすりガラスのようになります。 味が落ちるというより、形が先に崩れるのが厄介なところです。
当所が在庫を持たず、ご注文の翌々日にお届けしているのはそのためです。 週に一度まとめてお届けするより、量を分けて二度に分けたほうが、 使うときの姿は揃います。