其の一
餡の炊き方銅の平釜で、およそ六時間
北海道十勝の小豆を、前の晩から水にあてます。翌朝いちど沸かして湯を捨てる「渋切り」を三度くり返し、えぐみだけを流します。ここで手を抜くと、砂糖を入れたときに雑味が前へ出ます。
皮が指で潰せるようになったら砂糖を三回に分けて入れ、銅の平釜で練り上げます。仕上がりの見きわめは木べらの手ごたえです。べらを立てて筋を引き、その筋が二呼吸ほど残れば火を止めます。温度計は使いますが、最後に決めるのは手です。
- こし餡は生地の水分を奪うので、上生菓子用は少しゆるめに止めます。
- 粒餡は皮を割らないよう、練りではなく蜜を含ませる方法で仕上げます。
其の二
寒天のこと粉ではなく、糸を使う
糸寒天を一晩、たっぷりの水に沈めて戻します。翌朝、手でちぎって弱火にかけ、完全に溶けてから二度漉します。粉寒天なら十分で済む工程ですが、季寄せ堂は糸を使います。歯を入れたときの切れ方が違うためです。
粉寒天は固まる力が強く、しっかり止まります。糸寒天はもっと頼りない止まり方をして、口に入れるとすぐ崩れます。水羊羹「玉椿」で残したいのは、この頼りなさのほうです。
其の三
和三盆のこと研ぎ、押し、また研ぐ
和三盆糖は、竹糖(ちくとう)という細い砂糖きびの搾り汁を、盆の上で研いでは押しをくり返して作られます。粒がきわめて細かいので、口に入れると溶けきるまでの時間が短く、後に甘さが残りません。干菓子「露しずく」は、この糖と水だけでできています。
加える水を決める
その日の湿りぐあいで、加える水は数滴の差になります。多ければ型から抜けず、少なければ角が欠けます。
木型に詰める
親指の腹で、隅から中央へ向かって押します。中央から押すと空気が逃げず、抜いたときに割れます。
半日ねかせる
抜いたものを板に並べ、風の通る場所に半日置きます。急がせると表面だけが締まり、中がしっとり残ります。
其の四
葛の扱いについて透きとおるまで、止めない
本葛は、白く濁っているうちは味が粉のままです。火にかけて練りつづけ、鍋の中がすっかり透きとおってから、さらに二分ほど練ります。ここで止めると、冷めたときに粉っぽさが戻ります。
葛焼き「涼雅」は、流し缶で締めたあとに表面だけを焼きます。焼くのは香りのためではなく、切ったときに角が立つようにするためです。膜が薄すぎると崩れ、厚すぎると口ざわりが硬くなります。
本葛と葛粉のちがい
「本葛」と表示できるのは、葛の根だけを原料にしたものです。市販の「葛粉」には馬鈴薯でんぷんを合わせたものがあり、こちらは透明度が出にくく、練り上がりも早くなります。季寄せ堂は本葛のみを使います。
暑い日の締め方
気温の高い日は、流し缶を氷水にあてて表面から先に締めます。ゆっくり冷ますと下に重みが集まり、切ったときに厚みが揃いません。
其の五
木型のこと十年ごとに彫り直す
干菓子の木型は桜材です。硬く、目が詰まっていて、彫った線が崩れません。先代から受け継いだ型が四十ほどあり、節気ごとに入れ替えて使っています。
使うほどに角は丸くなります。丸くなった型で打つと、菓子の輪郭がやわらかくなり、これはこれで悪くない。ただし十年ほど経つと文様が読めなくなるので、彫り師に頼んで彫り直します。型が新しくなった年の干菓子は、線がはっきり立って見えます。